プジョーRCZというクルマをご存知でしょうか。
2010年から2015年まで生産されたフランス発のスポーツクーペで、その独創的なデザインが今なお自動車愛好家の間で熱い議論を呼んでいます。インターネット上では「ダサい」という辛辣な評価も散見される一方で、「芸術的」「唯一無二」と絶賛する声も少なくありません。一体なぜこれほどまでに評価が分かれるのでしょうか。
連休になるとさすがに田舎では見ないような外車を時々見かける。昨日見たプジョーの後ろ姿がすごく変わってたので検索してみた。RCZと言う車種で屋根からリアウインドウにかけて真ん中が窪んだ「ダブルバブルルーフ」と呼ばれるデザインらしい。重心を下げる機能もあるようだ。すごく個性的だ。 pic.twitter.com/6Yb7tX7TfU
— Green Pepper (@r2d2c3poacco) May 4, 2019
プジョーRCZの最大の特徴は、何と言ってもその特異なルーフデザインにあります。
「ダブルバブルルーフ」と呼ばれるこの構造は、ルーフ中央部分に二つの膨らみを持たせたもので、まるで宇宙船のコックピットのような近未来的な印象を与えます。
このデザインは1960年代のレーシングカーにインスピレーションを得たものとされ、空力性能の向上とともに視覚的なインパクトを狙った大胆な試みでした。しかし、この挑戦的なデザインこそが賛否両論を生む最大の要因となっているのです。
自動車のデザインは極めて主観的な領域です。何をもって「カッコいい」とするか、何を「ダサい」と感じるかは、個人の美的感覚、育った文化的背景、これまでに触れてきた自動車体験によって大きく異なります。プジョーRCZは、その独創性ゆえに、見る人の価値観を試す試金石のような存在となっています。本記事では、なぜRCZが「ダサい」と評されるのか、その具体的な理由を5つの視点から徹底的に分析するとともに、それでもなおこのクルマが一部の熱狂的なファンに選ばれ続ける理由を探っていきます。
理由1:好みが分かれる「ダブルバブルルーフ」の衝撃的デザイン

プジョーRCZが「ダサい」と言われる最大の理由は、間違いなくそのダブルバブルルーフにあります。ルーフに二つの膨らみを設けるというデザインは、自動車史においても極めて珍しいアプローチです。この構造は確かにユニークですが、一般的な美的感覚からすると「やりすぎ」と受け取られることが少なくありません。
従来のクーペモデルは、滑らかで流麗なルーフラインを持つことが美しさの基準とされてきました。ポルシェ911やBMW 6シリーズ、日産フェアレディZなど、世界中で愛されるスポーツクーペの多くは、シンプルで洗練されたシルエットを特徴としています。こうした「スタンダード」に慣れ親しんだ目には、RCZのダブルバブルルーフは異質に映ります。特に横から見たときのプロフィールは、通常のクーペとは明らかに異なる輪郭を描き、これが「違和感」として認識されるのです。
また、このデザインは角度によって印象が大きく変わるという特徴があります。ある角度から見ると未来的でスタイリッシュに見えるものの、別の角度からは不自然で奇妙に見えることがあります。特に後方斜めから見たときの印象は評価が分かれるポイントで、「宇宙船のようでカッコいい」という意見と「虫のようで気持ち悪い」という正反対の評価が並存しています。このように、見る角度によって印象が安定しないことも、「ダサい」という評価につながっている要因の一つと言えるでしょう。
さらに、ダブルバブルルーフは単なる装飾ではなく、実際に室内空間にも影響を及ぼしています。二つの膨らみの間の部分は相対的に天井高が低くなるため、後部座席の居住性が犠牲になっています。デザインのために実用性を犠牲にするという選択は、プジョーの美学への強いこだわりを示していますが、実用性重視の日本市場では理解されにくい側面もあります。「見た目のために使い勝手を犠牲にするなんてナンセンス」という批判も、「ダサい」という評価の背景にあると考えられます。
理由2:フロントマスクが醸し出す「プジョーらしさ」への抵抗感
プジョーRCZのフロントデザインもまた、批判の対象となりやすい要素です。大きく開いたグリル、切れ長のヘッドライト、独特の造形を持つバンパーなど、いわゆる「プジョー顔」は、フランス車に馴染みのない人にとっては受け入れがたいものかもしれません。
日本市場で人気の高いトヨタやホンダ、マツダといった国産メーカーのデザイン言語は、比較的穏やかで調和を重視したものが多い傾向にあります。また、ドイツ車の精悍で力強いフロントマスクにも一定の支持があります。これに対して、フランス車、特にプジョーのデザインは非常に個性的で、時として「主張が強すぎる」と感じられることがあります。
RCZのヘッドライトは、プジョーのデザインアイデンティティである「ライオンの目」を表現したものとされていますが、その細く釣り上がった形状が「きつい印象」「威圧的」と受け取られることもあります。また、グリル周辺のクロームメッキの使い方や、バンパー下部のエアインテークの配置なども、好みが分かれるポイントです。「顔つきが攻撃的すぎて落ち着かない」「なんとなく怒っているように見える」といった感想を持つ人もおり、これが「ダサい」という印象につながっているケースもあるようです。
さらに、RCZのフロントデザインは、プジョーの他のモデルと比較しても特に個性的です。同時期に販売されていた308や3008といったモデルとは明らかに異なる方向性を持っており、プジョーブランド内でも異端児的な存在と言えます。このため、「プジョーらしくない」という批判と「プジョーらしすぎる」という批判の両方を受けるという、ある意味で不幸な立場に置かれています。ブランドのファンからも、ブランド外の人々からも、それぞれ異なる理由で違和感を抱かれやすいデザインなのです。
理由3:パワー不足と感じさせる走行性能への不満
デザインだけでなく、走行性能の面でもRCZは批判を受けることがあります。特にエントリーモデルに搭載された1.6リッター直列4気筒ターボエンジンは、最高出力156馬力という数値で、スポーツクーペとしては控えめな印象を与えます。
現代のスポーツカー市場では、200馬力以上が一つの基準となっています。日産フェアレディZは300馬力超、トヨタGRスープラは最高で387馬力、輸入車ではポルシェケイマンが300馬力以上といった具合に、「スポーツ」を名乗るクルマには相応のパワーが求められる傾向にあります。この基準からすると、156馬力のRCZは明らかに見劣りします。「見た目だけでパワーがない」「スポーツカーのふりをした普通車」といった厳しい評価を受けることもあるのです。
実際の加速性能を見ても、0-100km/h加速は8秒台後半とされており、これは決して遅くはありませんが、心を揺さぶるような爆発的な加速感を期待すると肩透かしを食らうかもしれません。高速道路での追い越し加速や、ワインディングロードでのパワフルな立ち上がりを求めるドライバーにとっては、物足りなさを感じる場面もあるでしょう。この「期待と現実のギャップ」が、「ダサい」という評価につながることがあります。見た目が派手でスポーティなのに、走りがそれに見合っていないと感じられると、「張りぼて」「見かけ倒し」といった印象を持たれてしまうのです。
ただし、後期モデルやスポーツグレードの「RCZ R」では200馬力超のエンジンも用意されており、こちらはよりスポーティな走りを楽しめる仕様となっています。しかし、日本市場ではエントリーモデルが主に流通していたため、「RCZ=パワー不足」というイメージが定着してしまった面があります。また、車両価格とのバランスを考えると、同価格帯の競合車種と比較して性能面で劣ると判断されることもあり、これが「コストパフォーマンスが悪い」「お金の無駄」といった否定的な評価につながっています。
理由4:後部座席の狭さと実用性の低さ
プジョーRCZは2ドアクーペという車体形式上、もともと4人がゆったり乗れる車ではありません。しかし、その中でも後部座席の狭さは際立っています。ダブルバブルルーフのデザインを採用した結果、後部座席の頭上空間が極端に限られており、成人が快適に座ることはほぼ不可能です。膝元のスペースも非常に限られており、実質的には「荷物置き」としての用途が主となります。
日本市場では、スポーツカーであっても一定の実用性が求められる傾向があります。「週末のドライブには使えるけれど、日常の足としても機能してほしい」というニーズは決して少なくありません。家族を持つドライバーや、たまには友人を乗せたいと考えるユーザーにとって、後部座席が使い物にならないというのは大きなマイナスポイントです。「4人乗りと謳いながら実質2人乗り」「家族からの理解が得られない」といった不満の声も聞かれます。
また、クーペという形式自体が日本市場では不人気になりつつあるという背景もあります。SUVやミニバン、コンパクトカーが主流となっている現在、スタイリングのために実用性を犠牲にするクーペは「時代遅れ」「非効率」と見なされがちです。特に都市部では駐車スペースも限られており、大きな車体で実用性が低いクルマは敬遠される傾向にあります。RCZはその典型例として、「見栄のためだけのクルマ」「趣味性が高すぎて現実的でない」という批判を受けやすいのです。
さらに、トランク容量についても言及しておく必要があります。RCZのトランクは321リットルとクーペとしては比較的広めですが、開口部が狭く、形状も独特なため、大きな荷物の出し入れには不便を感じることがあります。ゴルフバッグを積むのにも工夫が必要で、「スポーツカーなのにゴルフに行けない」という皮肉めいた評価もあります。実用性を重視する日本のユーザーにとって、こうした使い勝手の悪さは「ダサい」というよりも「賢くない選択」と映り、結果的にネガティブな評価につながっているのです。
理由5:維持管理の難しさとメンテナンスコストへの懸念
プジョーRCZを「ダサい」と評する背景には、フランス車特有の維持管理の難しさへの懸念も含まれています。ヨーロッパ車、特にフランス車は、日本車と比較して故障率が高く、メンテナンスコストもかさむという印象があります。実際、電装系のトラブルやエンジン周りの不具合が報告されることもあり、「壊れやすい」「お金がかかる」というイメージが定着しています。
RCZに搭載されているBMW製の1.6リッターターボエンジンは、プジョーとBMWの共同開発によるもので、基本的には信頼性の高いユニットです。しかし、高回転域を多用する走り方をすると、ターボチャージャーやエンジン内部のパーツに負担がかかり、結果的に故障のリスクが高まります。また、定期的なオイル交換や冷却系統のメンテナンスを怠ると、重大なトラブルにつながる可能性もあります。こうした「手のかかる」性質が、特に初心者や車に詳しくないユーザーにとっては大きな不安要素となります。
さらに、プジョーのディーラーネットワークは、トヨタやホンダといった国産メーカーと比較すると店舗数が限られています。地方に住んでいる場合、最寄りのディーラーまで何十キロも移動しなければならないこともあり、メンテナンスのたびに時間とコストがかかります。また、専門的な知識を持つメカニックが少ないため、故障時の対応に不安を感じるオーナーも少なくありません。「壊れたときにすぐ直せない」「信頼できる整備工場が見つからない」という不安は、RCZの購入を躊躇させる大きな要因となっています。
加えて、RCZはすでに生産終了から10年近くが経過しており、中古車市場でしか入手できません。年式の古い個体も多く、前オーナーがどのような使い方をしていたか分からないリスクもあります。「過去に事故歴がないか」「適切にメンテナンスされていたか」といった不安要素が多く、購入後に予期せぬ出費が発生する可能性も否定できません。こうした維持管理の難しさが、「面倒くさいクルマ」「リスクの高い選択」というイメージを生み、結果的に「ダサい」という評価につながっているのです。
それでもプジョーRCZが選ばれ続ける理由

ここまで、プジョーRCZが「ダサい」と言われる5つの理由を詳しく見てきました。しかし、こうした批判にもかかわらず、RCZは今なお一定数の熱狂的なファンに支持され続けています。では、なぜ人々はこのクルマを選ぶのでしょうか。
最大の理由は、その圧倒的な個性とデザインの独自性にあります。確かにダブルバブルルーフは賛否両論を呼びますが、これほどまでにユニークなデザインを持つクーペは他に存在しません。街中でRCZとすれ違ったとき、その存在を見逃すことはまずありません。駐車場に停めておけば、必ず人々の視線を集めます。「誰も持っていないクルマに乗りたい」「個性を表現したい」と考える人にとって、RCZは最高の選択肢なのです。
また、フランス車特有の乗り心地の良さや、独特のドライビングフィールも魅力の一つです。プジョーは伝統的に「猫足」と呼ばれるしなやかなサスペンションセッティングで知られており、RCZもその例外ではありません。路面の凹凸を滑らかに吸収し、長距離ドライブでも疲れにくい乗り心地を実現しています。また、ステアリングのフィーリングやシートの座り心地など、人間工学的な配慮が随所に感じられ、「運転する喜び」を重視するドライバーから高く評価されています。
さらに、RCZは芸術作品としての側面も持っています。プジョーは自動車を単なる移動手段ではなく、美的対象として捉えるフランスの伝統を受け継いでおり、RCZはその哲学を体現したモデルと言えます。インテリアのデザインや素材の質感、細部にわたるこだわりは、単なる工業製品を超えた「作品」としての価値を持っています。こうした芸術性を理解し、共感できる人にとって、RCZは単なる「クルマ」ではなく、日常生活に彩りを添える「パートナー」なのです。
中古車市場での価格も魅力の一つです。新車時には400万円以上した車両が、現在では100万円台から購入できるケースもあります。「高級スポーツクーペを手頃な価格で手に入れられる」という経済的メリットは、特に若い世代や初めてスポーツカーを購入する層にとって大きな魅力です。もちろん、維持費やメンテナンスコストを考慮する必要はありますが、それを差し引いても十分に「お買い得」と感じられる価格帯となっています。
プジョーRCZの真の価値を理解するために
プジョーRCZを正しく評価するためには、このクルマが何を目指して作られたのかを理解する必要があります。RCZは、純粋な性能やスピードを追求したスポーツカーではありません。また、大人数を快適に運ぶファミリーカーでもありません。RCZは、デザインと個性を最優先に考えた、非常にニッチな市場をターゲットとしたモデルなのです。
自動車市場の大部分は、実用性や経済性、信頼性といった合理的な基準で製品を選ぶ消費者によって構成されています。しかし、一定の割合で「合理性よりも感性」「効率よりも美」を重視する層が存在します。プジョーはそうした層に向けて、あえて冒険的なデザインを採用し、他に類を見ない個性的なクルマを世に送り出したのです。したがって、RCZを「ダサい」と評価するのは、ある意味で当然の反応とも言えます。このクルマは、そもそも万人受けを狙っていないからです。
また、自動車デザインの歴史を振り返ると、発表当初は批判された車が、後に名車として再評価されるケースは少なくありません。ポルシェ911も、初代モデルが登場したときには「変わった形」と言われました。マツダRX-7のリトラクタブルヘッドライトも、当初は賛否両論でした。時代が変わり、人々の美意識が変化することで、かつて「ダサい」と言われたデザインが「先進的だった」「時代を先取りしていた」と再評価されることがあるのです。RCZも、将来的にはそうした「歴史的名車」の仲間入りを果たす可能性を秘めています。
まとめ:ダサいかどうかはあなたが決める

プジョーRCZが「ダサい」と言われる理由として、ダブルバブルルーフの特異なデザイン、好みの分かれるフロントマスク、控えめなパワー性能、後部座席の実用性の低さ、維持管理の難しさという5つのポイントを挙げてきました。これらは確かに客観的な事実に基づく評価であり、多くの人が懸念を抱く要素です。
しかし同時に、RCZには他のどのクルマにもない強烈な個性があり、それを愛する人々が確実に存在します。デザインの好みは人それぞれであり、「ダサい」と感じる人がいれば「美しい」と感じる人もいます。重要なのは、他人の評価に惑わされることなく、自分自身の感性を信じることです。
あなたがもしRCZを見て心が動かされたなら、それは運命の出会いかもしれません。維持費や実用性といった現実的な問題はもちろん考慮すべきですが、クルマ選びには「理屈を超えた何か」が存在します。毎朝ガレージを開けたときに笑顔になれるか、週末のドライブを心待ちにできるか、そういった感情的な充足感こそが、クルマを所有する本当の喜びなのではないでしょうか。
プジョーRCZは、あなたに選択を迫ります。「安全で無難な道」を選ぶのか、「冒険的で個性的な道」を選ぶのか。どちらを選んでも正解です。大切なのは、自分で決めること。そして、その決断に責任と誇りを持つことです。「ダサい」という言葉に惑わされず、あなた自身の目で、心で、このユニークなフレンチクーペの真価を確かめてみてください。


